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第2話 第2話 黒髪に黒目の代償

last update Last Updated: 2025-05-20 12:36:53

僕は――。

『黒髪に黒目』の容姿をしているから。

 つまりは他の貴族家からは『本当にアイザック家の人間か?』なんて事を思われているという証。

 それはこのアイザック家に使えてくれている使用人や、メイド、そして領兵の人たちまで、同じ様な疑いを持っている人はいる事でも証明できると思う。

 だからこそ表には出さないけれど、長年使えてくれているメイド長のコルマまでが、僕に対してあのような事を口走ってしまう事でも分かる。

 皆がどう思っているのかは、僕自身が良くわかっている。ただそれを表立って出さないだけ。

 それに父さんや母さんが本当に僕の事を愛してくれていると感じるからこそ、そのような雑音にも何もにせずに居られる。フィリアにしてもまったくにした様子もなく、僕の事を心から慕ってくれているし、僕が仮に『アイザック家』とは関係のない人間だったとしても、これから先も気にはしないで生きていけると思っている。

――さて……考えるのはよして、ご飯を食べようかな。

 まだ少しプリプリとしているフィリアをなだめながら、目の前でイチャつく両親に苦笑いしつつ、目の前に用意された食事を、作ってくれた人たちに感謝しながら口の中へと混んでいった。

 子供とはいえ、食事をした後はお勉強の時間が待っている。貴族社会にて生き残っていくためにというのも有るけど、このドラバニア王国内という事に関して言えば、アイザック家という名前に何処か期待している節が視られる。

 代々の先祖様方が偉大だったという事も有るのだけど、現当主である父さんの評価も高いので、次世代の当主と目されている僕にももちろん期待が掛かっているとはひしひしと感じる。

――そんな事は僕にはどうでもいいんだけどね。ただ自分の大切な人達と仲良く、楽しく暮らしていければそれだけでいいんだ。

 実のところ僕は、アイザック家当主という響きと、その名誉にはあまり興味がない。いや着る事ならばそのような立場になる事を回避したいとも思っている。

――僕の事は僕が一番知っているさ。

 そう思いながらも、自室の中で大きな机に向かい、参考にしている本とにらめっこしている。

 僕の直ぐ脇には教師として、アイザック家執事のフレックがずっと立って僕の様子を見つめている。だから逃げ出すことはできない。

「坊ちゃん分からない所でもありますか?」

「フレック」

「なにか?」

「その坊ちゃんて呼ぶのやめてよ」

「いやでも事実でしょう?」

 実はこのフレック、父さんと幼馴染で国立学院らの同級生なのだ。こうして僕の教師役になる前は、普通にロイドと呼んで遊んでくれたりしていた。フレック自体は子爵家の3男だと聞いたことが有る。

 家を継ぐことは出来なかったので、こうしてアイザック家の執事として働いてくれるようになった。

「何となくいやんだよね。なんだか距離を取られてるみたいでさ」

「なら……誰もいない時なら、時々は昔みたいお呼びしましょう」

「ほんと!?」

「あぁ。約束するよロイド」

「やったぁ!!」

 僕はもちろんのフレックも大好きなので、素直に喜んだ。

 しばらくはレックと共に、しっかりと学ぶべき事を学ぶ。

 これも将来の為になると、この領の為になると思えば苦にはならない。真面目に取り組んでいると自室のドアをノックする音が聞こえて来た。

 フレックが静かにあの方へと歩いていく。そのままドアの前で立ち止ると、ドアを開けずに声を掛けた。

「どうしました? 何かご用ですか?」

「お勉強中に申し訳ありません。メイドのテッサです。実はロイド様にご面会ご予約が入りまして、都合を伺いに来ました」

「そうですか、入ってください」

 ドアを静かにフレックが開ける。フレックの片手が腰に添えられるのを僕は見逃さなかった。

「失礼します」

 多少は大げさにしているのだろうけど、ドアの前でていた通り、入ってきたのはメイドのテッサ。その姿を見てフレックも息を吐きつつ片手を戻した。

「テッサ。誰から?」

「ロイド様、アルスター家からのようですよ」

「え? アルスター家?」

 僕は考えこんでしまう。

 アルスター家は伯爵家であり、アイザック家がある場所からは正反対に位置する土地の領主である。

「何かしたんですか?」

「いや、僕が何をかするわけないでしょ?」

 考えこんでいる僕に、ニコッと笑いながら話しかけてくるテッサ。実はこのテッサとは子供のころから仲良くしてもらっていて、僕は姉のように思っている。

 だからこそ、フレックいるというのに、このような軽口を言えるのだ。フレックもその事を知っているからこそ、何も言わない。

「うぅ~ん。父さんに相談するけど、どうせ断る事なんてできないでしょ」

「そうだな」

「そうですね」

 フレックもテッサもウンウンと頷く。

「じゃぁ、ちょっと父さんの所に行ってみるよ」

「分かりました。先に行ってご報告しておきますね」

「ありがとうテッサ」

 大きく一礼してテッサは部屋から出て行った。

その後ろ姿を見ながら、僕は大きなため息を漏らす。

この突然の訪問の予約という話が、これから先僕の人生を変えていくとは思ってもいなかった。

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